
■お願い
「年の花」誌の御講読拡大を推進中です。投句者のお一人一誌の御購読と、その御吹聴をぜひお願いいたします。
誌代等につきましては、「年の花」の裏表紙を御覧ください。
俳趣俳情?A
宗匠に竹刀
山下一海
(社)俳人協会
芭蕉が世を去って五十年ほどたったころ、江戸に旧室という俳諸宗匠がいた。宗因流を称し、江戸談林を再興させて、少しは知られた男。身長ずぬけて高く、面相やや異様、しかも僧形で、いささか無気味であった。だが、心は純真無垢、思ったことは何でも行動に移した。
ある日、麻布あたりの武家屋敷の前を通りかかると、中から剣術稽古の音が聞こえてきた。旧室は急に一本遣ってみたくなって、よせばいいのに玄関に進んで、頼もう!
座敷に通された旧室を見て侍たちは肝を清した。何せ法師姿で色黒き大男。さては天狗がわれわれの操心をこらしめにやってきたのかと、竹刀試合を申し入れる旧室に向かって、いやいやここは道場ではなく、ただ内稽古をしているだけだからと、早くも逃げ腰、何とも情ない。しかし旧室がますます強く望むので、よんどころなく応ずるほかなくなった。ところがいざ始めてみると、そこはもともと俳諧宗匠という文弱の徒、侍たちにたちまちしたたかに打ちすえられてしまった。座敷にもどった旧室は、さてさて痛い目にあったものだと、硯や紙を請うて、あざやかに一筆。
五月雨に打たれてひらく百合の花 旧室
根岸鎮衛の随筆『耳嚢』に伝える話である。